「でも真湖ちゃん。
さっさと今の彼氏と別れて、次に行きなよ?」
「あなたに言われなくても…」
分かっている、と言い返そうと思うけど。
「私、昌也と別れたくない…。
だって、好きだもん」
付き合っていても、私ばかり好きな関係。
昌也がそれ程私の事を好きじゃない事は、気付いている。
「じゃあ、これからも浮気に目を瞑っていればいいよ。
そういう不誠実な男は楽な女が好きだから、最後には真湖ちゃんの元に戻って来てくれるよ?」
この人の言うように、そうなのだろうか?
この人が言うと、そうなような気がしてくるけど。
昌也と付き合い出してからの、6年間。
私が楽な女だから、捨てられずに済んで来た。
加賀見一夜は、黙々とフォークでケーキを食べ始めるので、
私も同じように、食べる。
生クリームが凄く美味しくて、思わず声が出そうになる。
「…なんか話してよ」
加賀見一夜は、吹き出すように笑い出す。
「だって、あなたが黙ってケーキ食べ出すから」
なんとなく、話しにくい雰囲気で。
「さっきから気になってたけど。
あなたじゃなくて、一夜って呼んで。
さん、とかもいらないから」
名前を呼び捨てに?
いいの?
「…い、一夜?」
「何?」
そう首を傾げて訊かれた顔と声が色っぽくて、ちょっとドキっとした。
「私に戻って来いって言ったのは、
こうやってお祝いしてくれる為だけ?」
「なに?俺とヤりたいの?」
その目に、吸い込まれそうで。
「そうじゃないけど…」
そうじゃない、けど。
こんな風に、ただ祝って貰っていいのだろうか?
見ず知らずのような、私に。
一夜は急に大きなホールのケーキを、フォークで半分に割る。
「早食い競争しよう。
俺が先に食べたら、俺とヤるか、その警察官の彼氏と別れるかどちらか選んで?」
「もし、私が勝ったら?」
「なんでも、真湖ちゃんの言う事聞いてあげる」
勝てる自信があるのか、笑っている。
「…分かった」
そんな勝負…と思うけど。
受けて立ってしまう。
甘いものは好きで、勝つ自信もあるからなのもそうだけど、
この人がなんでも私の言う事を聞いてくれるのは、魅力的だ。



