あの温泉以来、一夜と居ると、もう一夜と一緒に居られるのは今日が最後じゃないか、と、常に不安になるようになった。


だから、以前よりも私は一夜の側に居た。


後期試験の為に大学へと行くのさえも、一夜の自宅から通っていた。


暦は2月になり、毎日本当に寒くて、まだまだ春は来ない。


今夜、一夜は事務所に行くと言ったので、私は半月振りくらいに自宅へと帰った。



「また暫く帰って来ないの?」


夕食時、お母さんに言われた。

本当に久しぶりに、今夜はお母さんと一緒に夕飯を食べる。


仕事は出来るけど、料理の下手なお母さん。

だけど、今夜のメニューであるカレーだけは得意で、
久しぶりに食べたお母さんのカレーはやはり凄く美味しくて、ちょっと食べ過ぎてしまった。


「多分、また暫く帰らないかな」


「そう」


お母さんは、私がまだ昌也と付き合っていると思っているのだろうな。


だから、最近ずっと昌也の家に居ると思っているのだろう。


「一度、真湖の彼氏紹介して?」

その言葉に、え、とお母さんの顔を見返した。

だって、昌也とは何度かお母さんは会っているから。


なんだか、本当に久しぶりにこうやってお母さんの顔を見たな、と思った。


「昔、家に連れて来てた、本堂君じゃないんでしょ?
今の真湖の彼氏」


もしかして、私が一夜と付き合っている事が、周りに知られているの?


昌也が、誰かに話した?



「なに、そんな驚いた顔してるの?
最近の真湖を見てたら、彼氏が変わった事くらい気付くから」


そう、笑っていて。


この人は、そうやって私の事を見てくれているのか、と驚いた。


「真湖も、お父さんみたいに居なくならないでね」


そのお母さんの声は、辛そうで。


破綻してると思っていた両親の夫婦関係だけど、
私が勝手にそう思っていただけで、そんな事はなかったのかな。


「また、私の彼氏紹介するね?」


もしかしたら、そうやって一夜をこの人に紹介出来る日も来るのではないだろうか。

それはないと思いながらも、その未来を諦めきれない。


「分かった。楽しみにしてる」


そう笑うお母さんの顔は、昔よりも老けたけど、やはり私に安らぎをくれた。