「10年くらいは、加賀見一夜は本当に良い男だったな。
忘れられないな、って思って欲しい。
別に、その10年の間他の男と付き合ってもいいんだけど、やっぱり加賀見一夜の方が良かったって、思って欲しい」


「なにそれ?」

そう言って笑うと、一夜もクスクスと私の耳元で笑っている。


「10年くらいは、真湖ちゃんにとっての忘れられない男でありたいな」


「え、それなら、10年じゃなくて一生でもいいよ?
一生、私は一夜を忘れない」


今、こんなにも好きで、こんなにも好きな人を、私は本当に一生忘れられないかもしれない。


「それは、ダメ。
10年後までで、いいよ」


なんで、と思うけど、なんとなくそれは聞き返せなかった。

きっと、私にはあまり聞きたくない言葉が返って来るだろうから。


なのに、一夜はそれを、言葉にする。


「真湖ちゃんには、いつか俺なんかよりももっと良い男が現れて、凄く幸せになって欲しいから」


「一夜よりも、良い男なんて居ないよ?」


「そんな事ないから。
今の真湖ちゃんは22歳で、10年後は32歳。
32歳の真湖ちゃんは、今よりももっともっと良い女になってて。
その時の真湖ちゃんは、加賀見一夜は、大した男じゃなかったって、きっと気付くよ」


そんな事ない、と思うけど。


大人の一夜の言葉は、なんだか言い返せない説得力があって。


「今の真湖ちゃんは、ペタンコな靴ばかり履いてるけど。
10年後は、高いヒールの似合う女になってて。
きっと、俺なんかじゃ手に入らないくらい最高の女で。
そんな真湖ちゃんに似合う良い男と、永遠に幸せになって」


永遠、か。


一夜は私に、永遠を誓ってはくれない。


「もし、一夜の言う通りだとして。
一夜も10年後、そんな私に釣り合うくらいもっと良い男になってるんじゃないの?」


「――うーん。それはないかな」


そう一夜は笑っているけど、その声が少し掠れていて。


もしかしたら、泣いているのかな?と思ったけど。


思い切り強く抱き締められて、振り返って一夜の顔を見る事が出来なかった。