自分の置かれた環境がつまらないと感じる時、人は時間が経つのが遅く感じる。


でも、もしもその環境を楽しいと感じた場合、人は時間が経つのが飛ぶように早く感じるんだ。



僕の中で、さくらとの初めてのデートは一瞬で時間が流れて行った。


普段は会話の中にも入らず笑顔すら見せる事がなかった僕が、彼女の前では別人のように笑って泣いた。


自分の傷跡にまつわる過去や、彼女を利用して生きようとしていたという魂胆を打ち明けた時でさえ、彼女は全てを受け入れてくれた。


彼女の優しさは暗闇に生きる僕にとっては酷く新鮮で、

彼女はまるで地獄に垂らされた1本の蜘蛛糸のように、僕の元へと手を伸ばしてくれた。


そうして、偽物の彼女であるさくらは、いつしか僕の中で何よりも尊く大きなものになっていったんだ。


観覧車でさくらを抱き締めた時、僕の中から溢れ出た感情は“愛”だった。


いつも温かな微笑みを浮かべ、まるで陽だまりのような存在のさくら。


僕は、死にたがりだった僕を生かしてくれて、笑顔にしてくれた彼女の本当の“彼氏”になりたかった。