例えば今日、世界から春が消えても。

それなのに何故、彼女は春を消したという現実と1人で闘わなければならないのだろう。

どうして、こんなに大切に想う人が死ななければ春は戻って来ないのだろう。


この世界は本当に、不公平だ。



「さくら」


太陽の光に照らされる彼女が、消えてしまいそうな程に儚く見える。


耐えられなくなった僕は思わず、彼女を抱き締めていた。


「どうしたの…って、うわっ!」


僕のいきなりの行動に驚いたのか、彼女は僕の肩に顔を乗せたまま微動だにしない。


「ねえ、」


今までに何度も否定されてきた話題を、もう一度口にする。


さくらの体温が直に伝わってきて、今や彼女の心臓の鼓動は僕と一体化しているというのに、

君が死ぬなんて、どうしても信じたくないんだよ。


「死ぬなんて嘘でしょ?だって、さくらみたいな人が死ぬなんて、理不尽だよ」


僕の声は、想像の何倍以上も静かで冷静なものだった。


「…冬真君、」


さくらが僕の肩に手を乗せ、そのまま腕を伸ばして僕の顔をまじまじと見つめる。


本当は全力で肯定したいのだろう、彼女の瞳はゆらゆらと揺れていた。


「だって…どちらかと言えば、死ねばいいのは」


僕だから。

そこまで言いかけて、ぐっと言葉に詰まる。


昼食時に彼女に言われた事を思い出してしまったから。