例えば今日、世界から春が消えても。

「さくらがした事は、何にも間違ってない。…確かに、春が無くなって辛い時期もあったけど」


何とか呼吸を整えて僕の顔を見たさくらは、再び顔を歪めて俯く。


「今は、君が居てくれるから大丈夫なんだ。春を知ってる君と一緒に居られるだけで、十分楽しい」


死なない、とは言いきれない。


僕を溢れんばかりの愛で包んでくれた両親に会いたいし、あんな最低最悪な家から一刻も早く開放されたい。


でも、さくらを心配させるような事だけは出来ないから。


彼女は、手の甲で目元をごしごしと擦った。


「だから、…もう、さくらを利用するなんて考えない。…でも、わがままなのは分かってるけど、この関係は壊したくない」


彼氏役が臆病でごめんね。

さくらの手を握るだけで胸がこんなにも熱くなるのに、君を泣かせてしまってごめんね。


「壊さない…私が言い出したのに、壊すわけないっ…!」


さくらは、首がちぎれそうな程に激しく首を振る。


「……ありがとう、」


鼻の奥がツンとして、でも、それを誤魔化すように必死に口角を上げる。


「ごめ」


「やだ、私が悪いのに何で謝るの…!?次謝ったら許さない…1人で、ジェットコースター乗らせるからね…!」


最後にもう一度謝ろうとしたら、泣き止もうと必死に努力しているさくらに遮られた。


その新手の脅しに驚いた僕は、言いかけた言葉を飲み込む。