例えば今日、世界から春が消えても。

今まで両親からしか貰ってこなかった感情だからはっきりと断定は出来ないけれど、

僕がさくらに抱くこの感情は、愛だ。



「だから、…ごめん、何て言ったらいいか分からないけど、…さくらは最後までちゃんと生きようとしてるのに、何か…」


今の僕は、さくらの存在のお陰で生きる事を諦めずに過ごしている。


今までだって死ななかった事が奇跡みたいなのに、もしも彼女が居なくなったら、僕はどうすればいいんだろう。



「ごめんっ…!」


何とかして言葉を続けようとした、その時だった。


さくらが、泣きながら口を開いたんだ。


「冬真君は、何にも悪くない。だって、最初に利用しようとしたのは私だもんっ…!」


彼女の花柄のワンピースに、水滴がぽたぽたと落ちていく。


「私、…春が無くなって、皆は全部忘れちゃって…もう、春を必要としてる人は居ないと思ってたの」


全部自業自得なんだけどさ、と、彼女はぐすんと鼻を啜った。


「だから、春を求めてる人が居るなんて、今まで考えた事もなかったっ…!」


遊園地に入った時は花の咲いたような笑顔を振り撒いていた彼女が、今では顔をくしゃくしゃに歪めて泣いている。


「ごめんなさいっ…!春だけじゃなくて、冬真君の大切な思い出まで奪って、本当にごめんなさい…!」