「あっ、…」


顕になった、長くうねる傷跡。


事故から何年経っても消える事のないそれは、まるで蛇のように僕の中で蠢き続けている。


そこが疼くあまり顔を顰めた僕の耳に、さくらの息を飲む音が聞こえてきた。


僕は、観念したように目を瞑った。


ああ、やってしまった。

彼女の大切な思い出に、僕が泥を塗った。



数年前までは、この傷を見た誰しもが僕を色眼鏡で見ていた。


それが嫌で、自分の過去を晒す事に耐えられなくなって長袖を着るようになったのに。


僕はその傷を、今1番見られたくない人に見せてしまったんだ。


「…ごめん、こんな汚いの、見せちゃって」


「ここ、触ってもいい?」


消え入りそうな声で謝ったのに、さくらの神妙な声に掻き消される。


叩かれるのだろうか、それとも引っ掻かれるだろうか。


様々なシチュエーションを想像しながら、もう痛みと闘うしかない僕は黙って頷いた。



でも。


「全然、汚くなんてないよ」


彼女の柔らかな手は、醜い傷跡を包み込むように優しく乗せられる。


事故の時に負った傷とその周りにある手術痕を含めた全てを、労わるように。


「痛かったね…。私も沢山注射されて痛い思いしたから、少しは分かるよ」


11年前に治ったから、今更痛むはずはないのに。


完全に傷口が閉じたそこを優しく撫でながら、彼女は口を開いた。