「空中ブランコとか、メリーゴーランドとかどうかな?楽しそうじゃない?」


彼女が顔を上げたから、僕は慌てて笑顔を作って頷く。


「そうだね」


もう、会話の内容も良く分かっていない。


何でもいいから、痛みさえ消えてくれればそれで良い。

お願いだから治まってくれ、頼む。


そう願ったのも束の間、

「いっ、…!」

急に激しい痛みが古傷を駆け巡り、僕は右腕を抱え込む様にしてそれを力の限りに押さえ付けた。


「えっ?どうしたの?」


地図を見ていたせいで状況把握が出来ていないさくらの狼狽えた声が聞こえるけれど、返事をする余裕もない。


「痛っ、…」


この痛みが消えるのには暫くかかるという事は、過去の経験から理解している。


でも、何でよりによって今なんだ。

どうして、さくらの前で…。


「どうしたの?痛いの?」


そこで、ようやく状況を理解したらしいさくらが、僕の右腕に手を伸ばす。


「いや…大丈夫、だから、」


彼女にだけは、僕の醜い過去を見られたくない。


首を振って嫌がる僕をよそに、

「大丈夫じゃないでしょう。見せて」

彼女は指先の白くなった僕の左手を掴むと、そのまま僕の右腕に触れた。


びくん、と、意志とは関係なしに右腕が震える。


「ごめん、」


何に対してかも分からない僕の謝罪にすら耳を貸さない彼女は、ゆっくりと僕の右袖を捲った。