例えば今日、世界から春が消えても。

そのまま、ぎゅっと力が込められる。


「この気持ちは、…死ぬ時まで、ずっと忘れないから」



はっと、我に返る。


そうだ、彼女は今はこんなにも人生を満喫しているように見えるけれど、

あと8ヶ月後には、彼女は死んでしまうんだ。



「さくら」


僕は正面を見ながら、彼女の名前を呼ぶ。


さくらが、くいっと顎を上げて僕の顔を見つめたのが伝わった。


「さくらが17歳の誕生日を迎えても、…死なないって事は、考えられないかな?白血病がもし再発しても、適切な治療が受けられれば、きっと大丈夫だよ」


絶えず聞こえてきた子供達のはしゃぐ声が、遠くに感じられた。


「うーん、…そうだね。そうとも考えられる。冬真君は頭良いねぇ」


少し考え込んだ彼女の返事は間延びしていて、彼女の中で答えは決まっているという事を嫌という程自覚させられる。


「でも、もしも私が誕生日を超えて生きられたら…」


一定の声量の彼女の声は何の感情も含んでいなくて、ジェットコースターの走り去る音がただの雑音に聞こえた。


「春が戻ってくる可能性は、なくなるかもしれないんだよ」


ははっ、と、どちらのものか分からない乾いた笑い声が聞こえる。



世界はどこまでも、残酷だ。