「冬真君、おはよう!ごめんね、待った?」


「ううん、全然」


7月の休日、初デート当日。


体育祭や中間・期末試験を経た僕達は、さくらの2つ目の願いを叶える為、満を持して遊園地の前で顔を合わせた。


「私、昨日張り切り過ぎて全然寝れなかったんだよね!そしたら15分寝坊しちゃった!まあ、このくらいは許容範囲だね」


普段の制服姿とは違う花柄のワンピース姿で現れた彼女は薄くメイクもしているのか、とにかく雰囲気が僕のような一般人とは一線を画している。


「そっか。僕は、逆に早く起きすぎたよ」


そんな彼女を見ていると微笑ましくて、僕も自然と笑みが零れる。


まあ、僕が早く起きた理由は初デート云々より、従姉妹と顔を合わせたくなかったからなのだけれど。


家に居るのが窮屈過ぎて、待ち合わせ場所に30分前に到着していた事は口が裂けても言えない。


心から嬉しそうに笑うさくらと共にチケット販売所へと向かいつつ、僕は心の中でそう誓った。




『朝からあんたと顔合わせんの無理なんだけど。明日は早く出てってくんない?』


昨夜、廊下を歩いていた僕は階段を降りてきた従姉妹と鉢合わせした。


彼女の名前は和田 遥(わだ はるか)、大学1年生。


元の名前は遥ではなく“春花”だったのだけれど、改名ブームの影響で、彼女も春が消失した数年後に漢字を変更したんだ。