例えば今日、世界から春が消えても。

僕がそんな事を考えているとは毛頭思ってないないであろう彼女は、

「まず、春っていうのは…ちょっと待って、先にデート先だけ決めてもいい?私、偽物でも彼氏出来たの初めてだから嬉しくて!」

と、純粋無垢な笑顔を浮かべ、早速最新型のスマホでおすすめのデート先を検索し始めた。


全然大丈夫だよ、と答えつつ、僕は自分の心がほんの少し温かくなったのを感じる。


何故なら、叔母家族からは酷い扱いを受け、部活も辞めて将来の夢もなく、何なら明日に対する希望も持てなかった自分が、

偽の彼女となった飯野さんとの初デートを、少しばかり楽しみに思い始めていたから。




「和田君、こんな私の願いを聞いてくれて、本当に本当にありがとう」


「いや、こちらこそ」


その後、気分が高揚しつつある飯野さんにより、初デート先は遊園地に決定した。


具体的な日にちはまだ決まっていないものの、偽物でも“彼女”が喜んでくれるのなら、僕は精一杯楽しませようと思う。


そして、僕達は初めて連絡先を交換した。


最初は大和に抜け駆けされたと思っていた僕は、意味の分からないプライド心から、彼女が何か言ってくるまで連絡先は交換しないと誓っていたけれど。


プライドを捨てると意外と良い事もあるんだ、と、初めて気付かされたんだ。



「じゃあ、…あ!」


帰り道、いつもの歩道橋の近くで別れようとした時。