例えば今日、世界から春が消えても。

「そう、それでね!」


そんな事を考えていた途端、視界いっぱいに目を輝かせた飯野さんの顔が映り込んだ。


「えっ」


いつかと同じく、僕は顔面を仰け反らせる。


「私、“死ぬまでにやりたいことリスト”っていうのを作ってるんだけど」


会話の内容にそぐわない笑顔が、ただひたすらに眩しい。


「この間の話の続きになっちゃうんだけど、…私の2つ目の願い、叶えてくれないかなー、なんて」


もちろん、嫌だって言ってくれても構わないからね。


涙を一瞬で引っ込ませた彼女は、満面の笑みで小さな手帳を取り出した。


そんな彼女を見ていると、何処からか楽しげなメロディーの曲が聞こえてきそうだ。


「私、その都度に願いを書き足してるんだけどね。実は、もう1つ目の願いは叶ってるの」


彼女が僕に見せてきたページ。


そこには、

『1: 美味しいものをお腹いっぱい食べること』

と書かれていた。


その下には、

『和田君、エマちゃん、大和君と韓国料理を食べた。ほっぺたが落ちるかと思った。チーズキンパ、最高!』

と、丸みを帯びた可愛らしい字で感想が書かれていて。


「こんなのが、死ぬまでに叶えたい事なの…?」


彼女の願いはこんなにちっぽけなものではなく、外国へ行きたいとかオーロラを見たいとか、そういう大規模のものだと考えていた僕ははっきり言って度肝を抜いた。