「元々、春は3月から5月…1年のうちの3ヶ月分の季節を指すの。これは知ってる?」
「うん」
「良かった。で、私は7歳の時に『あと10年生きたい』って願ったでしょう?それで、その直後から春が消えた」
数直線上に1から12までの数を振った飯野さんは、その内の3から5までの数字に斜線をひいた。
「私は春を盗んでて、春があるはずだった日数を奪って生きてるの。…そう考えると、」
彼女は数直線の下に“12÷3=4”という数式を書き込んだ。
「私は、1年生きる度に、4年分の春を奪ってる事になる」
1年は365日だから、少しは差が生じてるかもしれないけど…、と、彼女は頭を搔く。
「嘘…」
「うん、嘘かもしれない。これは私が考えた事だから」
でも、このままの計算でいくと、と、彼女はその下に新たな数式を書いた。
「4年分の春掛ける10年は40年。来年で春が無くなってから10年が経つから、40引く10で答えは30。…つまり、春が戻って来るのは30年後」
余白が大半を占めていた紙は、今では“30年後”という文字が書き足されている。
飯野さんは、ペンをおもむろに卓上に置いて僕の方を向いた。
今までに見た中で1番の、真剣な表情をして。
「この予想が正しくても外れてても、私は17歳の誕生日に死ぬ。それで……私が死なないと、春は戻って来ない」
「うん」
「良かった。で、私は7歳の時に『あと10年生きたい』って願ったでしょう?それで、その直後から春が消えた」
数直線上に1から12までの数を振った飯野さんは、その内の3から5までの数字に斜線をひいた。
「私は春を盗んでて、春があるはずだった日数を奪って生きてるの。…そう考えると、」
彼女は数直線の下に“12÷3=4”という数式を書き込んだ。
「私は、1年生きる度に、4年分の春を奪ってる事になる」
1年は365日だから、少しは差が生じてるかもしれないけど…、と、彼女は頭を搔く。
「嘘…」
「うん、嘘かもしれない。これは私が考えた事だから」
でも、このままの計算でいくと、と、彼女はその下に新たな数式を書いた。
「4年分の春掛ける10年は40年。来年で春が無くなってから10年が経つから、40引く10で答えは30。…つまり、春が戻って来るのは30年後」
余白が大半を占めていた紙は、今では“30年後”という文字が書き足されている。
飯野さんは、ペンをおもむろに卓上に置いて僕の方を向いた。
今までに見た中で1番の、真剣な表情をして。
「この予想が正しくても外れてても、私は17歳の誕生日に死ぬ。それで……私が死なないと、春は戻って来ない」



