「冬真?お前もこっち来いよー」


はっと目を瞬かせると、サッカーボールを人差し指で回したままの大和が、器用にこちらに向かって手招きをしているのが見えた。


その目は“行け”と言っていて。


プライドを捨てる、…そんなの、いつもの僕がしてきている事ではないか。

うん、と頷いた僕は、3人の待つ世界へ飛び込んだ。



「…あのさ、飯野さん」


自席に戻った僕は、間髪入れずに飯野さんに話し掛ける。


もしかしたら無視されるかもしれない、と思ったけれど、

「ん?」

彼女は、いつもと同じ笑顔を向けてきた。


「あの、…今日の放課後、教室に残れる?」


今謝るという手もあったけれど、どうしても、それと同時に“春を盗んだ”件についてもはっきりさせたかった。


彼女が、あんな嘘を誰彼構わず伝えているとは思えなかったから。


「あ、…うん」


僕の表情で全てが伝わったのか、彼女は一瞬だけ顔を強ばらせて頷いた。


そもそも、僕達は1週間も会話をしていなかったのだ、そういう反応になるのも当たり前。


「ありがとう」


お礼を言って会話を終わらせた僕の視界の隅で、大和が親指を立てているのが確認出来た。