例えば今日、世界から春が消えても。

春を盗んだ分だけ生きられるなんて、正直言って意味が分からない。


「そんなの、…もしかしたら、飯野さんが奇跡をおこしただけかも」


飯野さんが何らかの勘違いをしている事を期待して口を開いたものの、

「ううん」

彼女は、ゆっくりと首を横に振った。


「白血病は治ってなんかない、必ず再発する。自分の事くらい、自分で分かるよ」


「…じゃあ、」


「私の余命は、あと1年もない」


目を潤ませた彼女は何処か遠くを見つめ、涙を飲み込んだ。





「私は7歳の誕生日、あと10年生きたいって願った。…だから、私は17歳の誕生日に死ぬの」





「っ……」


その瞬間、

僕の中の何かが音を立てて崩れていくような、そんな感覚に襲われた。



この話がオカルトか嘘かどうかなんて、今の僕には知る術なんてない。


でも。


もしもこの話が本当なら、僕は彼女のせいで、

両親と共に過ごした最後の思い出を、最後の感情を、消された事になるんだ。


そう思った瞬間、言葉では言い表せない感情が心の底で煮えたぎるのを感じた。


駄目だ、抑えろ、いつもみたいに客観的に考えろ。

頭の中で、もう1人の自分が声を限りに叫んでいるのが聞こえる。


けれど、

「…何で、そんな事したんだよ」

どうしても、その言葉を頭の中だけに留める事が出来なかった。