「何、言ってるの」


自分の声が、一泊遅れて僕の耳に入ってくる。


それは、耳を疑う程に震えていた。


「今、日本には春がないでしょう?それ、私が消しちゃったの」


「いや、“消しちゃったの”って…」


飯野さんは、こんなに真面目な顔をしてSFじみた嘘をつく人だっただろうか。


知り合ってまだ日が浅くて、彼女が冗談を言って人を笑わせるのが好きな事は知っているけれど、

こればかりは、流石の僕も笑えない。


「分かるよ、信じられないよね。でもそうなの、そうじゃないと説明がつかないの」


彼女は、涙を流していた。



「だって…本来は私、もう死んでるはずだから」


ドクン、と。


“死”という言葉に、自分の心臓が嫌な鼓動をたてたのを感じる。


それは今までに何度も考えた言葉で、毎日家族と映った写真を見ては願い続けた言葉。


僕は、唾を飲み込んだ。



「…私、5歳の頃に白血病になったの。最初は経過も良くて、一時は完治したって言われてたんだけど、6歳の夏に再発して」


飯野さんの紡ぐ言の葉は、何よりも残酷だった。



飯野さんの誕生日は3月10日で、彼女は、自身の7歳の誕生日の前日に余命2週間と診断を受けた。


「病院の廊下から、両親が号泣してるのが聞こえてきて…。だから、検査結果が悪かったんだってすぐに分かった」