例えば今日、世界から春が消えても。

彼女の口調からは“美味しいものをお腹いっぱい食べたい”という願いが叶った事は容易に伝わるけれど、僕から見ても昨日の彼女の食べっぷりは凄まじかったから。


「昨日、追加注文してたしね」


「デザートは別腹って言うじゃん?だからあの時は食べられたんだけど、時間差で胃もたれ来たんだよね」


胃が2つあれば良いのに…、と、ワイシャツの袖を暑そうに捲りながらそう言う彼女は本当に純粋だ。


「胃薬飲んだ?」


僕の問いに、彼女は無言で首を振る。


「朝ご飯は?」


「しっかり食べた」


「それは、」


それは確実に、胃もたれしているお腹に朝から炭水化物を詰め込んだ君が悪いのではないか。

そう言ったら前みたいに睨まれそうだったから、既のところで口を噤んだ。


「まあね、私に非があるのは重々承知してますよ?でもさ、美味しかったんだし心ゆくまで味わいたいじゃん!」


そんな、急に逆ギレの様な態度を取られても。


自分に怒っているんだか韓国料理に怒っているんだか、それとも僕に怒っているんだか。


とにかく感情表現が豊かな彼女は、暑ーい、と、教科書を持っていない方の手で顔に風を送りながら階段を降りて行く。


「なら、昼は控えめにした方がいいんじゃない?」


飯野さんとは違って決して長袖を捲る事のない僕は、袖のボタンを開ける事もせずに彼女の後を追う。