例えば今日、世界から春が消えても。

飯野さんが取り乱した時、僕は何も出来なかった。


2人が彼女の対応をしている傍で、ただ事の一部始終を眺めていただけ。


エマが話題を振ってくれたのだって、僕があまりにも俯瞰的な態度をとっている事を気にかけたからのはず。



…自分は何て無力なんだろう、こんな事なら、11年前に死ねば良かったのに。



僕がこんな事を考えているとは夢にも思っていないであろう3人を見ながら、僕は黙って冷麺を啜った。

辛いんだかしょっぱいんだか、良く分からない味がした。




結局、僕達はそれから1時間近くその店に滞在していた。


泣いて体力を消耗したらしい飯野さんは追加で食べ物やデザートを頼み、全て綺麗に平らげていて。


彼女自身もどうして泣いてしまったのか分からないと首を捻っていたから、その件は笑い話となって幕を閉じた。


店から出た僕達は、何事も無かったかのように解散して。



そして、一夜明けた今日、


「うわー食べ過ぎた…絶対消化不良起こしてるよ今…」


「でも、料理食べたの昨日の夕方だよ」


「けど胃もたれしてるもん。チーズと辛いのが重かったのかなぁ…」


休み時間の教室移動で廊下を歩きながら、僕は飯野さんの嘆きを聞く羽目になっていた。