例えば今日、世界から春が消えても。

｢あ、分かった！サクちゃんが泣き止んだら、フユちゃんが何でも言う事聞いてくれるっていうのはどう？｣


その時、エマがぽんと手を叩いた。


｢…え、｣


僕は、ぽかんと口を開けて固まる。


例え飯野さんを落ち着かせる為でも、その内容に僕を入れるのはどうなのだろうか。


意味が分からない、と言いたくなったけれど、この状況を乗り切るには頷くしかない事を悟った僕は、

｢良いけど…｣

と、重たい口を開いて了承した。


すると、

｢っ、…ほんと、？｣

今まであれ程涙が止まらなかった飯野さんが、赤く染まった目で僕を上目遣いに見てきた。


その目は今にも零れ落ちそうな程の涙を蓄えていて、でも、エマからの条件を飲んだ彼女は必死になって涙を流すのを堪えていた。


自分の感情を必死に封じ込めようとしている彼女の姿は健気で、いたたまれなくなって、

僕の方から目を逸らした。



｢あ。ほら泣き止んだ！良かった、冷めちゃうからチキンも食べよう！｣


｢だから、これは俺のだってば｣


｢あと3つも食べれるの？本気で言ってる？｣


その後、すっかり泣き止んだ飯野さんを中心に、僕を除いた3人は楽しく食事を再開した。


そんな彼らの横に座っているはずなのに、何処か客観的に物事を見つめてしまう自分がいる。