例えば今日、世界から春が消えても。

韓国料理は初挑戦だという彼女が美味しそうにそれを頬張っているのを見て、僕はほっと胸を撫で下ろした。



飯野さんは、今や転入生である事を感じさせない程にクラスメイトと仲を深めている。


休み時間には席の周りに集まる女子と盛り上がり、授業中には発言しているから先生からの好感度も高いはず。


でも、彼女は特に、自分に一番最初に話し掛けてくれたエマと大和、そして隣の席である僕と話す頻度が高かった。


僕と話す、と言っても、こちらからは何の話題も出せないし、ほぼ一方的に飯野さんが話し続けているだけだけれど、それもそれで新鮮で。


飯野さんが楽しそうに話すのを見るだけで過去の事も家の事も忘れられる気がして、彼女と話す事に密かな楽しみを覚えている自分がいたんだ。



「ヤマちゃん、そのチキン食べたいから頂戴」


「やだこれ俺の」


「んもう。じゃあ、そっちのタレかかってる方頂戴」


「これも俺の」


「はあっ?」


ふと我に返ると、現役サッカー部のエースである大和と、彼を支える存在であるエマがチキンを巡った闘いを繰り広げていた。


「あははっ!大和君、それ渡してあげなよ!絶対1人で食べられる量じゃないって」


現在、何個もの料理を注文した僕達はバイキング形式で好きな料理を口に運んでいるものの、大和はその中のチキンを全て我が物にしようと奮闘していたんだ。