「何これ、中にチーズ入ってるの?すご、伸び過ぎてちぎれないんだけど!」


「切れないならここも取っちゃって良いよ。それにしても、サクちゃんが韓国料理食べるの初めてなんてびっくりだよ」



始業式から1ヶ月が経った、5月の某日。


僕は、飯野さんの“美味しいものをお腹いっぱい食べたい”という願いを叶えるべく、放課後に高校の近くにある韓国料理店を訪れていた。

飯野さんと会話が続かなかった時の助っ人に、エマと大和も引き連れて。



「なあ、何で和田の奢りじゃないわけ?」


4人がけのテーブル席に所狭しと並べられた韓国料理を見つめながら、大和がぼそりと呟く。


その口元からは今にもよだれが滴りそうなくせに、どうしてそんな口を利けるのか。


「ごめん。今、金なくて」


その言葉を真正面から受け取った僕が謝ると、

「やだなぁ、ヤマちゃんは誘って貰えて喜んでるんだよ!どっちにしろ割り勘なんだから、食べて食べて」

斜め前に座るエマが、僕達の方に真っ赤な液体のかかった食べ物を押し出した。


「んー、美味しい!…あ、でもちょっと辛い。けど全然食べれる!」


その隣では、既に自分で頼んでいたチーズキンパを口に入れた飯野さんが、もごもごと口を動かしながら幸せそうに感想を零していて。


女子が喜ぶ料理は韓国系だと、エマから助言を貰っておいて正解だった。