例えば今日、世界から春が消えても。

右腕の袖を捲り、顕になった長い傷の上に左手を置いて力の限りに押さえる。


自分の心臓の鼓動に合わせ、まるで生きているかのように古傷が痛むから、もうどうにも出来ない。



この痛みから抜け出すには、心に巣食う厚い雲を消し去って晴れを呼ぶには、

自分が死ぬしかないと、分かっている。



あの日、母に助けられなければ良かった。


そうしたら、こんな痛みに悩まされる事も無かったし、ここまで人生を俯瞰して悲観的になる事もなかった。


せめて僕も一緒に死んでいれば、いつまでも家族で仲睦まじく暮らせたのに。



あれから何度、死にたいと考えただろう。


僕が居なくても誰も悲しまないし、何ならこの家の住人は清々するのではないだろうか。


それなのに、決定的な1歩を踏み出せない僕は、結局は誰よりも臆病者で。


どうして僕だけ、こんな仕打ちにあわなければならないんだ。

どうして、両親の抱いていたものと同じ感情を持つ事すら許されないんだ。

世界はどうしてこんなにも、非情なんだ。



「っ、母さん、…」


思わずこの世には居ない母の事を呼びながら、痛みに耐えかねた僕は固く目を瞑った。