例えば今日、世界から春が消えても。

白米、冷凍食品にしか見えないコロッケ、そしてキャベツの千切り。


…なるほどね、僕は叔母が作った麻婆豆腐も食べさせて貰えないのか。

冷凍食品でも美味しいし、食事を作ってくれるだけ文句は無い。


でも、家族団欒の時を過ごす事で心の中に蓄積されるはずの幸せは、とうの昔に全てが消え失せていた。


そもそも、自分だけ自室で食事をするというのもおかしいと思う。


まあ、今となってはこれが慣れっこだし、あの人達と話す事なんて何もないし、逆にこれが気楽ではあるけれど。



“冬真”と書かれた箸が、湯気の立つご飯の中に潜り込む。


この箸もプレートも、叔母が『貴方専用の物よ』と言って名前を書いてくれた。


でも、それは裏を返せば“これ以外の物は決して使うな”という意味で。


結局、僕はこの11年間で1度も、この家の住人に“家族”として認められていないんだ。


所詮、僕は部外者で孤児。

このレッテルは、昔も今も何ら変わりがない。



ふっと顔を上げると、机の上に置かれた1つの写真立てが目に飛び込んだ。


そこに映るのは、満開の桜の木の下で微笑む亡き両親と、その真ん中でおちゃらけたポーズを撮る幼い僕の姿。


「…懐かしいな、」


僕はコロッケを口に運ぶ手を止め、その写真立てをそっと指でなぞった。