「さくら、貴方は本当に良い子。今まで、本当に良く頑張ったね…」
写真を撮り終えた後、ケーキを冷蔵庫にしまった僕達は再びさくらの元へと舞い戻った。
先生は、カメラを返した後に、
『人の感覚の中で最後まで残ると言われているのは、聴覚です。…飯野さんに、沢山話し掛けてあげて下さい』
と告げ、病室を後にしてしまった。
それは、この後のさくらの運命が分かっているからこその、思いやりのある行動だった。
今や、肩で呼吸をしているさくらは母親の腕の中に抱かれ、まるで胎児のように丸まっている。
「もうすぐ、痛くなくなるからね…。私達の元に生まれてきてくれて、本当に、ありがとうね」
さくらの頬に、彼女の母親の流した涙がポタポタと落ちていく。
「っ…サク、ちゃ…」
僕の隣に立つエマが、苦しそうに顔を歪めて俯いた。
僕を含め、此処に居る誰もが耐えられなかった。
彼女の命の灯火が消えるという現実が与える、言いようのない苦しみに。
「…さくら」
さくらの父親が震える声で彼女の名を呼び、彼女と母親を両手で抱き締めた。
その姿を見た途端、僕の視界が一瞬にしてぼやけていく。
「お前は、何処に出しても恥ずかしくない自慢の娘だ。…さくら。お前は、父さんの誇りだよ」



