例えば今日、世界から春が消えても。

眠ったままでも、彼女の耳に僕の声は届いているはずだから。




と、その時だった。


「……、…」


今までずっと閉じられたままだった彼女の瞼が動き、

「…っ、」

まつ毛が揺れ、さくらがゆっくりと目を開けたんだ。


「え…さくら、!?」


状況把握が追い付かず、目を最大限まで見開いたまま固まってしまっていた僕は、慌てて彼女の名前を呼んで立ち上がる。


焦点の合わなかった栗色の瞳が光を帯び、その目が、確実に僕の顔を捉えた。


「っ、…僕の事、分かる?」


彼女の目を真っ直ぐに見つめた僕は、震える声で問い掛ける。


さくらが起きているのを見るなんて、いつぶりだろう。


酸素マスクの下から聞こえる呼吸音が、一瞬乱れて。


「っ、ん……」


彼女は、嬉しそうに目を細めて頭を動かした。


「良かった……」


落窪んだ彼女の目は、ただ真っ直ぐに僕だけを見つめている。


長く深い眠りから覚めたとはいえ、彼女がまた奈落の底に沈んでいくのは時間の問題だ。


へなへなとパイプ椅子に座り込んだ僕は、ベッドの柵ギリギリまで体勢を傾けて彼女の力の抜けた手を握った。


「さくら、今朝、ニュースでね」


先程話した事を伝えようとしたら、彼女の手がピクリと動いた。


驚いた僕は、まじまじと彼女の顔を見つめる。