例えば今日、世界から春が消えても。

目を閉じれば浮かび上がるのは、”春って何?桜ってどんな花?”と興味津々な生徒達と感極まっているエマ、そして、サッカーボールに書かれたさくらからのメッセージを大事そうに撫でる大和の姿。


「実際は、今から29年後に春の予兆が現れて、桜は開花しないけど蕾は膨らむかもしれないんだって。…それで僕、考えてみたんだけどさ」


眠り続ける彼女は一段と痩せ細っているけれど、その姿は眠れる森の美女よりも美しいと自信を持って断言する事が出来る。


「29年後の3月から5月は、去年の10月から12月…君の白血病の再発が分かった頃の時期に当てはまるんだ」


春が消えている時期は、さくらが元気に生を全うしている証拠。


でも、

「…それって、君の命の灯火が弱くなればなる程、春の予兆が現れるって事じゃないかと思って。…何だか、嬉しいんだか悲しいんだか分からないね」

気持ちの整理が追い付かず、鼻の奥がツンとする。


それでも、伝えたい事は最後まで言い切らなければ。