例えば今日、世界から春が消えても。

「でも別に、今春が戻ったとしても…ごめんやっぱり、どっちでも良いかな」


でも別に、今春が戻ったとしても、“死にたいと思う気持ちは残り続けるから”。


言おうとしていた言葉を急いで飲み込んだから、結論があやふやになってしまった。


「分かる。神のみぞ知るってやつだね!」


でも、飯野さんは笑って頷いてくれる。


結局、彼女が“春”に対してどう思っているのかは聞き逃してしまった。



「此処がプール。そこ、見える?」


その後、僕達はプールのある3階に到着した。


口数が少ない僕の言いたい事を読み取った彼女は、塩素の匂いが微かに残るドアにへばりついて外を覗き込んだ。


「お、本当だ!藻のせいで気持ち悪い色してるけど、泳いだら気持ち良さそう!」


クロールしか出来ないんだよねー、と楽しげに笑った彼女は、くるりとこちらを振り向いた。


「和田君はスポーツ出来そうに見えるけど、泳ぐの得意?」


「あー、…」


僕はまた、言葉に詰まった。


言いたい言葉は沢山あるのに、そのどれもが言ってはいけないものの様な気がして、慎重になってしまう。


こういう時、何処までなら言っていいんだろう。


彼女の予想通り、確かに僕はスポーツが出来る。


2年に上がる直前まではエマと大和と同じサッカー部に所属して、毎日ボールを懸命に追い掛けていた。