例えば今日、世界から春が消えても。

「さくら、入ってもいい?」


2階に辿り着いた僕は、目の前に掛けられた”さくらの部屋”と書かれたプレートを観て笑みを零し、そのドアを軽くノックして呼び掛けた。


「…はーい」


数秒後、中から蚊の鳴くような小さな声が聞こえてきて。


1ヶ月間も会えなかったさくらに、ようやく会えるんだ。

嬉しさと緊張を解す為に軽く息を吐いた僕は、ドアノブをゆっくりと回した。



「久しぶりだね。迷わなかった?」


ドアを開けると、部屋に居たのは以前よりも遥かに小さくなってしまった彼女の姿が僕の視界いっぱいに映った。


シングルベッドに横になり、枕の部分を高くしてこちらを見つめる彼女の顔は顔面蒼白で、胸の上で組まれた手なんて棒よりも細い。


ベッドの横には点滴器具が突いていて、その管はうねりながら彼女の左腕に繋がれている。


何よりもさくらの変わり果てた姿に驚愕してしまった僕は、意図せずとも溢れ出しそうになる涙を懸命に堪えて彼女に笑いかけた。


だって、こんな状態になっても尚彼女の目は輝いていたし、その顔には幸せそうな笑顔を称えていたから。


「全然迷わなかったよ。楽しみすぎて早く起きちゃったしね」


後ろ手でドアを閉めた僕は、愛する彼女の姿だけを見つめたままベッドの隣に腰を下ろした。


「冬真君はいつも早起きだよね。また家族に何か言われたの?」