例えば今日、世界から春が消えても。

「あの子は2階の自分の部屋に居るわ。階段を上ってすぐの部屋で、プレートが掛かってるからすぐに分かるはずよ」


さくらの母親のおっとりとした口調は、まるでさくらそのものだ。


父親の優しい笑顔、母親の周りを明るくさせる話し方を受け継いだ彼女に早く会いたい。


「ありがとうございます」


もう一度お礼を言った僕は、つい先程購入した置き土産を母親に手渡して階段を上り始めた。


階段の壁には、生後間もない頃から今に至るまでの彼女の誕生日や記念日の写真が、1枚ずつ額縁に入れられて大切に飾られていた。


6歳の誕生日、そして小学校の入学式の立て札の前に立ったさくらの背後には、僕が何百回と写真で見てきた桜が桃色の花を咲かせている。


けれど、彼女が言っていたとおり、

余命宣告を受けた翌日に迎えた7歳の誕生日を祝う写真は見つける事が出来なかった。


「娘に変なことするんじゃないぞ!」


「お父さん、和田君はそんな子じゃないから」


「知ってる、冗談だよ」


後ろから両親のテンポの良い会話が聞こえてきて、写真を見ながらゆっくりと歩みを進めていた僕は勝手に微笑ましい気持ちになる。


さくらが人を笑わせるのが好きなのはきっと父親譲りなのかな、なんて考えて―――。