例えば今日、世界から春が消えても。

「でしょう?親も喜んでくれて、お祝いに新しいスマホ買ってくれたんだ」


精一杯の賞賛の言葉を投げ掛けると、最新版だよ、と、彼女はワイシャツのポケットからスマホを出し、いたずらっ子の様な顔をして自慢げに見せてくる。


幼子の様なその行動に笑みを浮かべつつ、僕は彼女をアリーナへ向かう道へと誘導していった。



「左側にあるのがアリーナで、右側がサブアリーナと最上階にプールが入ってる棟になってる。屋根もあるし濡れないから右の棟に行って、校舎巡りは終わりにしよう」


外は、朝よりは弱まっているものの、未だにしとしとと雨が降り続いていた。


「そっか、今梅雨なんだっけ」


外廊下にある水溜まりを避けて歩く飯野さんが、ぽつりと口にする。


「昨日からだって」


「ああ、そういえばニュースでやってたかも」


そうしてサブアリーナのある棟に辿り着いた僕達は、濡れた雑巾の上に立って上履きの裏についた汚れを擦り落とした。


雑巾のキュッキュッという音が、サブアリーナで部活をしている人達の履く靴の回転音と混ざり、何だか不思議な気持ちになる。


「此処がサブアリーナ」


「へぇー」


背伸びをして、何とかすりガラスのドアの向こうの景色を見ようとしている飯野さんは、何処か小動物ぽさも否めなくて可愛らしい。


「3階にプールがあるから、取り敢えず行ってみよう」


「うん!」