例えば今日、世界から春が消えても。

瞬間、具合の悪かったはずの彼女はがばりと起き上がり、ふらつく足で立ち上がった。


「大和くーん!頑張れー!」


両手をメガホンのようにして口の横に添えた彼女の全身全霊の声援は、きっと彼の元にも届いたはず。


そしてたった今、再度相手チームからボールを奪い返してゴールに向かって一直線に走って行く人こそが、


「っ、大和…!」


11と描かれた背番号を翻した、大和だった。



ボールの傍から片時も離れない程にそれをこよなく愛し、サッカー部からも一目置かれる存在に成り上がった逸材は、最早ボールを蹴っていない。

サッカーボールが、彼の足に吸い付いているんだ。

磁石のようにくっついたそれは、もう誰にも取られる事はない。


「ヤマちゃん!」


マネージャーとさくら、応援に来た人々の大きな声援が風を切り、空高く駆け上る。


試合終了まで、残り5秒を切った。


「凄い…勝てるよ、勝てる!」


胸の前で両手を組み合わせたさくらの目は、宝石のようにきらきらと光り輝いていて。


彼女の横に並んだ僕は、大きく息を吸って声を張り上げた。


「いけーっ!」



瞬間。


シュッ………


大和が蹴り上げたボールが弾丸の様な鋭さと速度を保ったまま、


シュルルルルッ………


キーパーの手を易々とすり抜け、勢い良くゴールネットに吸い込まれて行った。