例えば今日、世界から春が消えても。

まだ具合が良くなりきっていない彼女の口調は変わらず活力がないけれど、彼女の纏う空気が柔らかくなったのは僕にも容易に理解出来た。


彼女の言葉を汲み取った僕はありがとうとお礼を告げ、たった今思いついたある事を口にする。


「それならさ、…」




僕の提案を聞き終えたさくらは、最高、と囁いて僕の右手に手を絡めてきた。


それはつまり、彼女が僕の意見に賛成だという事を表していて。


笑顔になった僕は、彼女の手を強く握り返す。


「その日まで、絶対元気でいないとね」


強い決意の滲み出たその声は、何重にも重なって僕の鼓膜に残り続けていた。



と、その時。


「いけるよー!ヤマちゃーん!」


校庭の方からエマのひび割れた大声が聞こえてきて、僕は弾かれたように顔を上げた。


いけない、さくらとの会話に夢中になっていて、試合の事なんてすっかり忘れてしまっていた。


慌てて残りの試合時間と得点状況を確認した僕の目は、校庭内で走り続ける1人の男子に釘付けになる。


試合の残り時間はいつの間にか20秒を切っており、大和のチームは相手チームと同点で競り合いをしていて。


「さくら、起きれる?今ボール持ってるの大和だよ!」


僕は校庭から片時も目を離さぬまま、横になっているさくらを優しく揺する。


「え?大和君が!?」