例えば今日、世界から春が消えても。

自分だけが知る春の全てを、彼女はキャンバスに閉じ込めたのだろう。


まるで、僕が持っているたった1枚の家族写真のように。


「そうだよ。入部してから退部するまで、それしか描いてない」


そっと目を開けると、校庭の方を見つめる彼女の横顔が目に入った。


さくらが握りしめているのは筆ではなく、

僕の傷跡のついた右腕で。


「なるほど」


さくらが描く春は、どんな色をしているのだろう。


相手側の選手が再びシュートを決め、反対側の観客席が沸き立つのを見ながら、相変わらずの反応しか取れない僕はぼんやりと考える。


「その絵、捨てちゃった?」


「ううん。全部、私の部屋に飾ってあるよ」


「なら、…それを僕が見る事は、出来るかな?」


そうして最終的に僕の口を継いで出てきたのは、さくらが全身全霊を注いで描いたであろう作品を見たいという強い好奇心。


「…見たいの?」


再び、さくらの腕が僕の傷跡に触れる。


いつもなら嫌悪感が身体中を駆け巡るのに、彼女が触る分には何も感じないから不思議だ。


「冬真君なら、そう言うと思った」


彼女の顔がくしゃりと和らいだのが斜め上からでも確認出来た。


「今度、家に来てよ。全部見せてあげるから」