例えば今日、世界から春が消えても。

それ程、彼女は今日という日を楽しみにしていたんだろうな、と、心の中で考える。


「ねえ、冬真君」


その時、彼女が前を向いたまま僕の名を呼んだ。


「ん?」


僕は、右手でゆったりとしたリズムを刻むのを止める。


「冬真君も、サッカー部だったんでしょう?」


「…そうだよ。1年の頃ね」


さくらはずっとグラウンドの方を見つめていて、そこに映っているのはボールを追い掛けるサッカー部員の姿。


僕は、何の感情が生み出したのかも分からない笑みを浮かべて同意した。


「…何で辞めちゃったの?冬真君、絶対上手そうなのに」


そこで、“冬真君がサッカーしてるとこ見てみたかった”と言わないさくらは、非常に良く出来た僕の彼女だ。


だって、それを言われた所で僕の気持ちは変わらないから。


「……んー、」


彼女の手が動き、僕の右腕の傷に服の上から触れているのを感じつつ、僕は口を開いた。


「家族に、これ以上迷惑を掛けれないから」


「…迷惑だったの?」


彼女の頭が動き、その澄んだ瞳の中に僕の姿が映り込む。


「さあね?迷惑じゃなかったかもしれないけど、僕的には、家族にこれ以上負担をかけたくなかった」


家族にも部員にも、余計な心配と迷惑を掛けれなかったから。