例えば今日、世界から春が消えても。

「謝らないで」


人を膝枕したのなんて生まれて初めてで、彼女を心配する気持ちと共に胸の鼓動が激しくなったのを感じる。

僕は何処まで馬鹿なんだ、こんなに心臓がうるさくては彼女に聞かれてしまうではないか。


冷静を装って、薬はないの?、と尋ねるものの、これが薬の副作用だから、とか細い返答が返ってくる。


「そっか、…」


そう言われてしまうと、自分の無力さを嫌という程に実感してしまう。


副作用の苦しみは彼女にしか分からないはずだし、僕はただ、彼女の隣で手を繋く事しか出来ないんだ。


横になったさくらは、いつの間にか棒のように細くなってしまった両手で僕の右手を握りしめていて。


それはまるで、暗闇に落ちてきた蜘蛛の糸に懸命にしがみついているようにも見えて、

僕の頭からはもう、サッカーの試合の事なんて綺麗に消えてしまっていた。


「…冬真君の手、あったかい」


不意に、さくらの小さな小さな声が秋風に乗って運ばれてきた。


「本当?さくらの帽子も温かそうだよ」


「ううん。冬真君の方が、もっと」


唇に弧を描いて、僕は空いている手で彼女の被っている帽子を撫でる。


まるで生まれたての赤ちゃんのように僕に全体重を預けているさくらの身体は、いつの間にか、一回りも二回りも小さく細くなってしまっていた。