例えば今日、世界から春が消えても。

「ん?」


集中が切れ、一瞬で現実世界へと引き戻される。


「どうしたの?疲れた?」


ぱちぱちと瞬きを繰り返し、彼女の頭が肩からずり落ちないように前を向いたまま尋ねてみると。


「ん、…なんかちょっとだけ、だるいかも」


先程までの興奮気味の声は何処へやら、彼女の弱々しい声が鼓膜を震わせた。


「…さくら?」


ゆっくりと右肩に乗せられた彼女の顔を見ると、


「…私、全然大丈夫だよ」


強がる彼女は固く目を瞑っている上、肩で辛そうに呼吸を繰り返していて。


いやいやいや、これが大丈夫なはずがない。

僕は、心の中でぶんぶんと首を横に振る。


きっと彼女はずっと体調が思わしくない事に気がついていて、でも僕達を心配させないようにその辛さをひた隠しにしていたんだ。

…僕は彼氏なのに、何も気づく事が出来なかった。


ごくりと唾を飲み込んだ僕は、

「体勢辛いなら、こっちに横になっても良いよ。もし体調があれなら、途中で帰ることも出来るし」

彼女と繋がれた手を擦りながら、優しく呼びかけた。


さくらは既に試合を観戦する余裕もなくなっているようで、

「絶対帰らない。でもごめん、…ちょっとだけ横になる」

その言葉を言い終わるか終わらないかのうちに体勢を変え、僕の膝の上にゆっくりと頭を乗せた。