例えば今日、世界から春が消えても。

くるりと振り返ると、


「わー、サッカー部ってこんなに人数居たんだ…。大和君、1人だけ野球部みたいだから目立つねぇ」


大きめの独り言を零しながら、真っ直ぐこちらに歩いてくる小さな人影が1つ。


「おはよう。体調は大丈夫?」


椅子から立ち上がってさくらの元へ駆け寄った僕は、彼女が差し出した左手を握り締めながら尋ねた。


「当たり前でしょう、私を何だと思ってるの?ようやくやりたいことが叶う日に、体調崩すわけないじゃん」


薄桃色の毛糸の帽子を眉毛が覆われる程に深く被った彼女は、僕の方を見上げてわざとらしく頬を膨らませてみせる。


「ごめん、…席、取っといたよ」


彼女の台詞が冗談だと分かっていても謝った僕は、先に取っておいた2席を指さした。


もちろん、彼女は冗談だよ、と笑ってみせた後。


「おー!さすが冬真君、ありがとう!」


本当なら薬の副作用で吐いてもおかしくないのに、まるでそれを感じさせない勢いで飛び跳ねて椅子の方へと駆け寄ってしまった。


「ちょっと待って、早い!」


不意打ちをかけられた僕は、慌ててそれを追いかけて彼女の左側に腰掛ける。



さくらの底知れない明るさが、太陽よりも明るい光となって僕の事を煌々と照らし続けていた。



「実は私、サッカーについて何も知らないんだよね。1チームの人数は9人で合ってる?」