10月初旬、カフェで目にした時のさくらの髪は普段より若干毛量が少なかった程度だったけれど、彼女の髪の抜ける速度は異常な程に早くて。


定期試験が始まる直前には産毛だけの状態になってしまった為、彼女は毛糸の帽子を被り始めた。


初めてその姿を見たエマは悲しさのあまり号泣していたけれど、当の本人は、

「これ意外といいよ。暖かいし、耳まですっぽり隠れるし!」

と、あっけからんとした様子で笑い飛ばしていた。


最も、僕は彼女がどんな姿になろうと気持ちに変化は無かったから、

「似合ってるよ」

と、今の自分が知りうる最大級の褒め言葉を使って褒め称えたのだけれど。



そうして、11月初旬。


さくらは、ようやく自身が手帳に書いた3つ目のやりたいことの半分を叶える事が出来たんだ。


その願いは『大切な友達と忘れられない思い出を作ること』で、そのうちの1つが、エマと一緒に駅前にあるショッピングモールに行く事。


「モールの下にアメリカとかハワイの料理を扱ってるお店があるから、そこで何か食べようよ!海外の気分も味わって貰わないと困るからね」


僕と大和は同行しなかったから後から聞いた話だけれど、さくらはモールに着いてから帰るまでの数時間、ずっとテンションが上がり続けていたらしい。