そのまま無邪気に尋ねられ、一瞬答えに迷う。


「あー、多分理系かな」


将来の事なんて何も考えていないし、文理選択の紙も適当に記入してしまったけれど、国語よりは理科が得意だから理系なのかもしれない。


曖昧に答えると、


「すご!あれでしょ、サングラスみたいなのかけて、白衣着て試験管揺らすやつ!」


理系は全員研究員になるとでも考えているのは、彼女は気取ったポーズで眼鏡をかける仕草をした。


「あー、まあ…発想は間違ってないと思うよ」


「でしょ!下の階には何があるの?」


頭を掻きながらそう言うと、彼女は楽しそうに一回転して階段を指さした。


「下には美術室と図書館と…面白いものなんてないけど」


「ううん!これ、新居のルームツアーみたいでワクワクしない?私だけ?」


うん、絶対に君だけだと思うよ。

膝上のスカートを揺らしながら階段を駆け下りる彼女を追って、僕も下の階へ降り立つ。


「凄いね…これ、美術部の人が描いた絵かな?」


「んー、そうじゃないかな」


何がそんなに楽しいのか、人の気配のない廊下をスキップして進む飯野さんと、数歩後ろから早足で追い掛ける僕。


美術室の近くの廊下に貼られた美しい風景画をしげしげと眺めながら、飯野さんが口を開いた。


「そっか、綺麗だねぇ」