「校舎案内か…取り敢えず、2年の階がある4階から下がりつつ、説明するね」


「ありがとう」


放課後、僕は先生に言われた通り飯野さんの為に校舎案内をしようと試みていた。


でも、そこには問題が1つある。

それは僕が口下手で、ほぼ確実に会話を広げられないという事。


家でも殆ど口を開かないし、学校ではエマと大和が何かと話し掛けてくれるものの、自分から進んで話す事はあまりなかった。


飯野さんは、今日が転入初日だというのに数え切れない程の人達に囲まれていて、まるで僕の隣だけ華やいでいるかのようだった。


自己紹介の時は空気がピリついたものの、あの雰囲気はいつの間にか和らいで消えていて。


だからこそ、校舎案内は話を回すのが上手なエマや大和に押し付けようと思ったのに、彼らは部活があると言って請け負ってくれなかった。


こんな僕と長時間学校を歩き回らないといけないなんて、飯野さんが可哀想だ。

ああ、幼少期のひょうきん者だった僕は一体何処に行ってしまったのか。



「此処は理科室で、隣が理科準備室」


1つ1つの教室の上にはプレートが掛かっているから説明しなくても分かるはずなのに、何の面白みもない僕の説明に対し、彼女はうんうんと頷いた。


「私、理科全然出来ないんだよね。私は文系なんだけど、和田君は?」