例えば今日、世界から春が消えても。

思わず目を擦り、自分が見たものが見間違いではないか何度も確認する。


でも、僕が見たものは幻覚でも何でもなくて。


「いや、…嘘だろ、」


乾いた吐息が、口から漏れた。



何故なら、彼女が握っていたものが、


頭皮から抜けた一房の黒髪だったから。







――――――――――――――――――……


「あれ、此処って…」


時は瞬く間に過ぎ、放課後。


エマと大和に連れられた僕達がやって来たのは、見覚えのあるカフェだった。


「わあ、美味しそうなケーキだね。素敵な場所ー」


「でしょう?此処のチーズケーキは絶品だから、おすすめだよ」


高校の最寄り駅の近くにあるこのカフェに入るのは初めてらしく、さくらは目を輝かせて外に置かれたメニューを吟味している。


女子達が此処のカフェが取り扱うケーキの話題で盛り上がっているのを横目で見ながら、僕は半歩後ろでサッカーボールを蹴っている大和の肩を叩いた。


「ん?」


「ねえ、誰が此処に行こうって言い出した?」


「え?」


僕の声は想像以上に冷めたもので、サッカーボールを手に持って振り向いた彼は完全にとぼけた様子で口をすぼめる。


大和は嘘をつくのが下手だから、何か魂胆がある事くらいはすぐに予測がつく。


それに、“あの時”に僕達が訪れた所もこのカフェだったから、デジャブじみた感覚も捨てきれない。