例えば今日、世界から春が消えても。

「休むよ。運動より食べる方が大事でしょ。でも、行く場所は秘密だからね」


いや、何だその理論は。

今までそんな話は聞いたことがなかったのだが。


それに、サッカー部現役エースで実力もある大和が部活を休むなんて、明日は雹でも降りそうだ。


ぽかんと口を開けた僕をよそに、

「そういう事だから。よろしくね」

ベージュ色の髪を揺らして微笑んだ彼女は踵を返し、大和と何やら話しながら自席へと戻ってしまった。



残された僕は、ただ唖然とするばかり。


このまま家に帰っても良いことはないから予定が入っただけでも有り難いものの、まさか彼らが部活を休む決断を下すなんて。


「楽しみだね、放課後。何食べるんだろうねー」


ふと我に返ると、隣に座るさくらが嬉しそうに顔を綻ばせていた。


そうだね、と頷くと、今までずっと髪を弄り続けていた彼女はこくりと頷き。

「ちょっと私、トイレ行ってくるね」

ゆっくりと立ち上がり、何処か覚束ない足取りで教室を出て行ってしまった。


空気が揺らめき、溶けて消えてしまいそうなその後ろ姿を見つめていた僕は、

「え、…?」

さくらが教室から出る直前、彼女が手に握るものを見て胸の動悸が強まったのを覚えた。


これは、さくらに対する愛情からというよりは、見てはいけないものを見てしまった事に対する焦燥感のせいだ。