例えば今日、世界から春が消えても。

そうして、中間試験を2週間後に控えた10月の初旬。


｢ねえ、2人共！今日の放課後空いてるよね！？｣


さくらと他愛もない会話を楽しんでいた僕の所に、満面の笑みを浮かべたエマと大和が姿を現した。


「え…？空いてるけど、どうしたの？」


艶のある黒髪を手ぐしで整えながら、エマの方を見上げたさくらが首を傾げる。


「中間試験で全員が赤点回避できるように、何か食べに行くのはどうかなと思って」


さくらに向かってどや顔を決め込む大和は、勉強道具の代わりにサッカーボールを大事そうに抱えている。


「いや、大和は毎回赤点しか取らないじゃん」


思わずそう突っ込むと、

「うるさいな、そんなのはどうでも良いんだよ！とにかくお前も暇だろ？放課後絶対空けとけよ、良いな」

大和に、鼓膜が破れそうな程の大声で喚き散らされた。


「わ、分かったけどさ」


そのあまりの圧に若干引き気味に頷きつつ、僕はある疑問を口にする。


「部活は？今日オフじゃないでしょ」


「ん？フユちゃんがそんな事聞いてくるなんて珍しいね」


退部してから部活の事は一切口に出さなかった僕が自ら質問をしてくるなんて余程の成長だと感じたのか、既に自席へ戻ろうとしていたエマが振り向き、大和と意味ありげな目配せを交わした後にこちらを向いた。