例えば今日、世界から春が消えても。

「ごめん、海外でどうやってWiFi繋ぐのか分からなくてさ。だって全部英語なんだもん」


「いやいやお前、俺より英語出来ただろ」


頭を掻きながら謝るさくらに、はあ?、と目をひんむいて抗議する大和。


「ううん、本場の英語は全く聞き取れなかった」


いつものメンバーに囲まれながら笑っているさくらを見て、僕は違和感の原因が何なのかが分かった気がした。


「そんな事より、私学期明けのテスト受けなきゃいけないんだよね。放課後に出来るか頼んでみようかなぁ」


うーん、と首を捻りながらも笑顔で話し続けるさくらの声は、今までの彼女とは比べ物にならない程に覇気がなかったんだ。



そしてその日を境に、僕は彼女の数々の異変を目撃する事になった。



「では、82ページのこの問題を…飯野さん、お願いします」


さくらが登校してきて3日目の国語の授業。


国語は文系の彼女が得意な科目だし、僕も先生の指す問題の答えはすぐに分かった。


それなのに、

「飯野さん?」

彼女は、先生が何度名前を呼んでも、心ここに在らずといった状態でぼんやりと宙を眺めていて。


「さくら、指されてるよ」


我慢出来なくなった僕が彼女の肩を叩くと、

「え?ああ、…ごめん、どこだっけ」

はっと我に返って笑顔を見せたのはいいものの、先生の話を聞いていない事が丸分かりな台詞を口にしたり。