蒼子はこの緋凰国に仕える宮廷神女の一人である。
 火、水、風を司る三人の神女のうちの一人で蒼子は水を司っている。
 大雨、洪水、雨乞い、水に関する厄災を引き受けこの国を守っている。
 国には貢献しているはずなのに熱意を感じないとか職務怠慢だとか言われているのは納得いかないが。
 そんな蒼子に太子との結婚話が持ち上がった。
 その太子はとても蒼子を気に入っているらしく、すぐにでも結婚をしたい旨を帝から聞かされ、蒼子は焦った。

 御免被る。

 しかし、太子との婚姻を蹴るのは理不尽な事に問題になる。
 あからさまに嫌な顔をした蒼子に帝は条件を出した。

 緋凰国を治める者は身体のどこかに国の紋章である鳳凰の印が浮かび上がるといわれている。
 その鳳凰の印は王になるべき者にのみ現れることから王印と呼ばれ、現帝には手の甲にそれを持つ。
 現在宮廷には五人の太子がいるのだが誰にも王印が現れない。
 そして現帝にはもう一人、十年前に失踪した太子がいる。

 緋凰国第三皇子、緋鳳珠。

 頭脳明晰、容姿端麗、品性方向、武術にも長けた才色兼備で現帝の自慢だったという。
 生きていれば二十四歳になる太子がこの王印を持っているのではないかと現帝は考えているようだ。

その太子を探し出せたならばこの婚姻はなかった事にしようと言う。
 蒼子は占いを得意としている。それを見込んでの事だった。
 蒼子はこの条件を飲んだ。
 太子と婚姻を結んでしまえば蒼子は城に一生繋がれる。

 王宮での生活で不自由はない。
 衣食住には困らないし、給金もかなりの額にも関わらず、生家にも定期的に金が入る。
 衣食住や生活の一切を保証されているが、それと引き換えに蒼子は自由を制限されている。
 許可がなければ王宮からは出れないし、その許可も年に数回しか下りない。

 蒼子は幼い頃に自身の持つ力を発揮した為、
他の神女や神官達よりも早く王宮に入る事を余儀なくされた。
 大好きだった家族と引き離されていきなり見知らぬ人達と慣れない環境での生活が始まり、神女としての教養を身に着けさせられた。
 幼い頃から王宮での暮らしをしていた蒼子は外の世界をあまり知らない。
 知識として知っていても実物を見た事がない物も多く、経験した事がないものも多い。
 未知の世界に出て色んな景色を目に映し、触れて、感じる。

 それが蒼子の憧れだった。

 太子との婚姻を承諾してしまえば蒼子は一生城に繋がれる。
 身体だけでなく精神の自由すら奪われてしまう気がして嫌だった。
 外の世界に憧れる事すら出来なくなってしまうのではないかと考えると怖かった。
言われた仕事をこなし、国の為に尽くす。
 それが蒼子に与えられた役割だが自分の行っている事が国の為になっているのか疑問だ。

 私でなくとも良いのではないかと思う。

 こんな事は口にするのは憚れるがこの国が栄えようが滅びようが蒼子はどうでも良いと感じていた。
 蒼子は神女として自分の存在に意味を見出せない。
 神女になりたい者は不思議な事に沢山いる。
 可能ならこの立場をすぐにでも明け渡し、実家に帰りたい。

 故にやる気のない蒼子にとっては自分を縛り付ける帝の息子など正直どうでもいい。 

 けれども、今回の人探しは面倒だと思いながらもわくわくした。王都から出て広い世界を見る事が叶うとは思わなかったからだ。

 蒼子は得意の占いで太子はこの港町にいる事を突き止め、従者と共にこの町を目指した。

 しかし、この町に来る途中で仲間とはれてしまい、仲間を探そうとしても体力を使い過ぎて疲労で力を満足に使えなくなってしまった。

 運動不足が大いに祟っている。
 少し歩いただけで息切れする始末だ。

 人の良さそうな老人や女性に道を訊ね、荷馬車に乗せてもらったり、泊めてもらったりしながらこの港町までやって来た。

 疲労は蓄積していくものの、悪漢や人さらいに遭う事もなく、比較的安全にここまで来れたのは幸運だった。

 流石、私。天に愛されてる。

 だが自分が思っているより体力は限界だった。
 そして昼間、鳳に会った時には疲労と空腹が限界に達して倒れてしまい、今に至る。