「もうやめて!」


 思わず声を上げて電信柱の影から飛び出していた。


 空き地には運転手の男と良治、それに土下座している誠の姿があった。


「琴音!?」


 誠が驚いて駆け寄ってくる。


 誠のおかげでどうして誠が殺されることになったのか、すべてがわかった。


 誠は私のためにこんな無謀なことをして、そして犯罪の口封じのために殺されてしまったのだ。


 必死に助けようとしていたのに、自分のせいだったなんて……!


「もう十分だよ誠。だから駆け引きなんてもうやめて!」


 ここで大人しく引き下がればこの人たちは諦めてくれるかもしれない。


 私がなにも知らないフリをして良治とデートをしてあげて、この人に捕まれば誠のことを助けてくれるかもしれない。短時間でいろいろなことを考えた。


 でも、そのどれもが正解だとは思えなかった。こういうとき、どうすれば一番いいのか検討もつかない。


 警察を呼んですべてを話してそれで終わり。


そんなのは世間のニュース番組の中だけの話だ。


 その後私たちが元の関係に戻れるとは到底思えなかった。良治の友人や家族だってそうだ。


 いつまでも白い目で見られたり、好機の目で見られたりすることは想像に難しくない現実だ。