戻り駅

「う、うん」


 返事をしながらなにが大丈夫なんだろうと疑問を感じた。


 目の前で恋人がひかれて大丈夫なわけがない。


 しかも周囲の人の会話によると助かる見込みはほとんどないみたいだ。


 美紗が私の手を掴んできた。やわらかくてスベスベとした手。


 さっきまでつないでいた誠の手とは随分と違って頼りない。


「琴音、一緒に病院に行かなきゃ」


 そうだ。


 誠は救急車に乗っていたんだから、後を追いかけたほうがいい。


 きっとこの辺の一番多きな総合病院へ搬送されるはずだ。頭では徐々に理解してきても、体は言うことをきかなかった。


 この場から動きたくない、認めたくないと必死に抵抗している感じがする。


「ねぇ、琴音!」


 美紗に両肩を掴まれて揺さぶられて、我に返って息を飲んだ。


「ごめん美紗。私行くところがあるの!」


「え、ちょっと琴音!?」


 美紗が私を呼ぶ声を後ろに聞きながら、私は駅へ向かって駆け出したのだった。