戻り駅

 過去にも未来にも行けないから、きっと恋人の病気は治らないままだ。


 そんな少し冷めた目で鑑賞していた。


 でも今回は違った。


 何度も過去へ戻ってやり直し、未来へ行って新薬を手に入れようとする恋人を見ていると、自然と涙が出てきた。


「大丈夫か?」


 鼻水を啜り上げる音を聞いた誠が声をかけてくる。私はハンカチで目元を押さえて何度もうなづいた。


 周りで泣いている人なんて誰もいない中、私だけがこの映画に感情移入し、いつまでも泣き続けていたのだった。


「驚いたな、琴音があの映画であんなに泣くなんて」


 帰り道に差し掛かり誠が笑いながら言った。


「ごめん、恥ずかしかったよね」


「恥ずかしくはないよ。だけどあの手の映画を琴音は冷めた感じで見るんだと思ってた」


 私はうなづいた。実際に一度目見たとき私は冷めた目で映画を見ていた。見終わった後につまらなかったと誠に文句のひとつでも言ってしまっていたかもしれない。だけど今回は映画を見終わった後パンフレットまで購入してしまった。


以前の私と今の私は明らかに違っている。


 しばらく映画の話をしているとあっという間に赤い屋根の自分の家が見えてきた。