戻り駅

☆☆☆

 私は走っていた。


 走って走って走って、駅へと向かう。


 その間何人もの人にぶつかり、罵声を浴びせられて、それでも足を止めなかった。


 車からどうにか出たとき私は何度も踏み潰された誠の死体を目の当たりにした。


 救急車を呼んだって無駄だとひと目でわかるほど体は損傷し、内臓があふれ出していたのだ。


 違う違う違う!


 こんな未来は違う!


 走りながら強く左右に首を振った。


 涙がとめどなくあふれ出してきてとても止めることができない。周囲の景色は滲んでよく見えなくっていたけれど、それでも足を止めることはできなかった。


 早く戻らなきゃ。


 早く戻って、誠を助けなきゃ!


 学生たちで溢れる駅が見えてきたとき、なにかにつまづいて手を出す暇もなく顔から派手にこけてしまった。


 アゴを激しく打ち付けて激痛が走る。


きつく目を閉じて顔をしかめ「痛っ」と呟いた瞬間、周囲の喧騒が消えていた。


 そっと目を開けるとそこには学生たちの姿はなく、小さな古い無人駅がポツリと存在しているだけだった。